火曜日

日曜日に、twitterで、「かけざんのローカルルールの問題」について知った。

次の問題を考えよう。「5つのかごがあって、それぞれのかごにリンゴが3つづつ入っている。リンゴは全部でいくつか?」これに 5 x 3 =15 と答えたら、式の立て方に間違いがある、というのだ。そういえば、そういう話を聞いたことはあったが、特殊な事例だと思っていた。ところが、それは非常に広く流布しているらしい。日曜日は休養していたこともあって、少し自分でも調べてみたり、twitter で流れる資料を見たりして、事態の深刻さを認識した。

かけざんの教え方の一つとして、ひとかごあたりのリンゴの個数を5つ並べるときに、かけざんを使う、というのは当然でてくる例題である。今、この例題を念頭に置いた表現を [3]_5 と書こう。[ ]はかごを表していて、3 はかごの中のリンゴの個数で、横の5 はかごの個数である。このとき、 [3]_5 =15 というのを認識して、これがかけざんの例だとするのは全く正しい。そして、[3]_5 のことを3 x 5と書こう - というのも、例から一般化へのステップとして当然のステップである。その場合、3x5 には [3]_5 というイメージが付随しており、[5]_3 ではおかしい。また、 [3]_5 =[5]_3はすぐに納得できるわけではない。

ところで、かけざん x というのは、特定の例題だけにあてはまるものではない。色々なケースでかけざんという演算が有効になる。3行5列の人なり石なりを数えるときがそうだ。これを無理に [5]_3または [3]_5 風に解釈したりあてはめたりすることは可能だけれど、不自然になるし、こじつけのルールが必要になる。むしろ、3行5列の石の個数を 3|_5 のように別の記号で書くのが適当であろう。この場合には、視覚的に、 3|_5 =5|_3 はすぐにわかる。(どちらの方向から見るかだけの違いだから。)

このような [3]_5 や 3|_5 というのは、かけざんの原イメージに相当する規則だと思う。かけざん x  というのは、[3]_5 や 3|_5を抽象することで得られる。人類はおそらく長い年月をかけて理解したのだと思う。つまり、[3]_5 や 3|_5 、あるいは他のローカルルールも含めて x を使って書くことで、格段に便利になったのだと思う。ちなみに、僕の場合、3|_5 のことを 5x 3 と書く癖があるけれど、勿論、どちらでもいい。並べる場合にはどっちでも同じなのを受け入れないのは厳しい。*1

冒頭の問題で、5つのかごを横に並べてリンゴをたてに3つづつ置いていくとき、[3]_5 でなく、3|_5とイメージする人も当然いる。僕が教えるならそういう感じで教えるだろう。そして、3|_5 のかけざんによる僕の表現は 5 x 3 だ。3x5 とは[3]_5 のことだから、僕の 5x3 を[5]_3と解釈されて、間違いにされたのでは、冤罪もいいところだ。つまり、[3]_5 <--> 3x5 という間違った考えにもとづいた判断が下されていることになる。[3]_5 --> 3x 5 を教えるのはいいけれど、それを「かけざんルール」として固定化してしまうのはよくない。([3]_5 --> 5x3 とするローカルルールだって構わない。)ましてや、3x5 --> [3]_5 が成立する余地はない。だから、5x3 --> [5]_3ではないので、冒頭の問題で、5x3=15 の立式が間違いだとする根拠はない。

以上のような議論は、おそらく、繰り返しなされてきただろう。1970年代前半で新聞に取り上げられて以来続いてきた論争らしいし、かの遠山さんも1970年代後半に「順序を変えても間違いではない」とする解説を書いているらしい。それでも2010年まで続いているのだから、そう簡単に収斂するとは思えない。しかし、あまりにも呆然としたので記録に残すことにした。

*1:某県では、3|_5 を 3x 5 と書くか、5x3 と書くか、教育委員会が指定してきたらしい。どちらを指定してきたと仰っていたか僕は既に忘れているが。