水曜日

例年、8月上旬は、講義も会議も何もない研究集中期間である。しかし、今年は、色々とあわただしい毎日になっている。それでも学期期間中よりは楽だし、この期間に絶対に何かひとつを持ってこないとやばい。(というわけで、送ってくださっているノート等の反応は弱くなっています。)

考えているのは、流れに流れて、「多体系の線形輸送係数の計算」という、「いまさら、そんな古い問題...?」といわれる問題をやっている。勿論、線形応答理論があるので、考えている状況に対応する時間相関を計算すればよい、という普遍的な公式はある。しかし、この時間相関を得るには時間変化を考えないといけなくて、平衡統計力学の分配関数の計算とかと質的に違う。それはそうだが、そうはいっても、輸送係数を「あたかも統計力学計算しているノリ」で捉えることが出来るでないか... というのは、現象論レベルでは実はあれこれある。何にもとづいた計算なのか分からないので、原理的なことは謎なことが多いのだけど。また、時間の問題をパスして輸送を議論したい.. というのは、この10年の間に何度もこの日記で書いてきたことでもある。そういうわけでその問題は唐突ではない。

予想しているのは、(あるクラスの)多体系の線形輸送係数の変分表現である。Nemoto-Sasa シリーズの延長上で、かつ、根本君の未公開ノートを踏まえて「非自明でありながら今到達可能な命題」として考えた。中々美しい構造になっており、その結果として、輸送係数のある上限を「統計力学チックな公式」で計算できる(かな)。多体系でも解ける模型なら明示的に解けるし、解析的に解けない模型でもモンテカルロで数値評価が可能になるし、あるいは、(平均場とか)統計力学的な近似式を得ることはできる。さらに、実は、物理研究者が普通に使っている程度の「もっともらしい仮定」を挟めば、その変分評価が厳密になるので、輸送係数の統計力学公式になる。その仮定はそんなに変ではないと思うんだけど、残念ながら、(今日のところは)式の上では見えない。

事実上(隙間だらけの)1週間でここに至っているのは、根本ノートがあったからである。[そのノートを全部自分で構築したら1ヶ月かかる。]夏学期に色々送ってくれていたのだけど、僕の理解の精度が甘いままにしていた。ノートをカンニングしながら自分の言葉で整理して、問題をフォーカスし、アタックした。また、「8月上旬に何かする」といって何もできなければ、負けだしな。「研究できなくなったら引退せよ」という自分へのプレッシャーは強く感じている。正直すごく焦っていた。焦りつつの作業なので、スカになっている可能性も高いが、本当であって欲しい。こういう祈る状態は好きだ。

とにかく、これは何とかしよう。一つでも出来ると気分が良くなるしなぁ。後、Maes-Nectony vs Hatano-Sasa というものすごく分かりやすい練習問題があるのだが、それも来週のうちには手をつけないと..。また、「Kawaguchi-Nakayamaノート」や「根本君の別ノート」で粗視化に関係した素晴らしい進展があるので、若者の勢いにのっかって僕もそのさらに向こう側を考えたいが、これはまだ漠々としている。(そういう漠然とした問題をだらだら話す時間のために京都研究会に1日でも参加したかったんだが...。)