■
モントリオール(カナダ)の研究会:非平衡統計(とくに、large dcviation 関係)の物理と数学の境界あたりにメインがあるような感じの位置づけで、ドレスデンのときの生物への応用などはない。数学に重心がある話は、細部は理解できず、物理的には自明に思えるまるまるを示すのに条件がいるのかぁー、という初心者レベルの感想しかいえないし、逆に、物理の講演は大枠を知っている話がほとんどでもあり、細部について確認する、という感じだったかな。あ、そういえば、ひとつ大変勉強になる講演もあった。数理物理というより、応用数理に近い話で内容も良く理解できたが、僕があまり知らない話で、かつ、最近の興味と大変近く、慌てて関連文献を落とした。
僕は、熱伝導下相共存の話で、ドレスデンのときと大体は同じ。おおまかなメッセージはある程度は伝わったと思うけれど、いくつかの重要なことが理解されていなかった。プレゼンに工夫が必要というのもあるが、やはり、内容が難しい。境界条件やノイズの影響、長さスケールの問題、これらがからみあっているので、考えたことがなかったらさっとついてこれないのかもしれない。それでも、クリスチャンのコメント(質問)とスポーン先生のコメント(質問)は、なるほどもっともなので解決しないといけない。特に、スポーン先生のは「○○という模型で同じ現象がおこるかどうかみたい。」ということで、これは至極もっともなので、滞在中に模型も考えていた。これは多分できたと思うがノートに書いていない。数値的に調べたいが・・。
クリスチャンとは(ドレスデンでの議論以上に)様々な論点について詳しく議論して、相互理解を深めた。特に、クリスチャンの学生がやっている問題との関係を理解するためのその1、その2のように、毎日アイデアを(僕が)もっていって直接議論して、最終的には中々面白い方向性の課題を得たように思う。
いずれにせよ、論文公開が遅れているのがよくない。こういう議論をする際に、プレプリントがでていないのは全くダメだとさらに意を強くして思った。間に合わなかったんだが、うーん・・いかんね。
■
エネルギー論を満たす確率的オーダーパラメータダイナミクスを解析して、熱伝導下相共存の解析をする論文を執筆中である。発展方程式にオリジナリティーを主張する気はなく、「オンサーガ理論による」の一言でもいいのだが、論文では、そのモデルについて紹介する必要がある。実際、Hohenberg-Halperin のレビューでモデルの分類があり、それをよく知っている人は、それとの関連を聞きたくなる。ドレスデンの講演でも、そういう質問があった。記憶をたどって、エネルギー論がないので、潜熱の発生およびその拡散はモデルB, C, H でも記述できない、と答えた。
今日確認すると、確かに、その答えは間違ってなかった。しかしながら、おどろくべきことに、なんと原論文Halperin-Hohenberg-Ma のモデルC は、レビューのモデルCと違って、非保存オーダーパラメータとエネルギーの結合方程式で、エントロピー汎関数にもとづく時間発展のことだった。(オンサーガそのものだから、彼らもそこにオリジナリティーを主張しているわけではない。)
あらら。運動量自由度がないこと(=これはゆらぎを考えるときに致命的)、界面エネルギーのエネルギー項を忘れている(=大きな効果はないことを今は確認している)、エントロピー汎関数の形を臨界点近くにしぼっている、、ということを除いて、解析しているモデルと本質的に同じである。
ドレスデンの質問の答えは、「Halperin-Hohenberg のレビューのモデルCではないが、Halperin-Hoenberg-Ma のモデルC と同じクラスだと考えてよい。ただし、1次転移を考えているので、エントロピー汎関数の形は異なる。また、熱伝導下相共存状態におけるゆらぎの効果をみているのが異なる。」であるべきだった。
■
ドレスデンで1週間の研究会があった。Stochastic thermodynamics :Experiment and theoryという題名で、ゆらぎの定理からの発展に関わってきた研究者が集まった。特に、50歳以上の古株に加えて、40才以下の新しい研究者がでてきたのが特徴かもしれない。4人いる組織委員は、実験ふたりは60才以上だが、理論ふたりが40才以下というのが象徴的かもしれない。
内容的には、「ゆらぎの定理」に代表される「第2法則を一般化した等式」から、「熱力学的不確定性関係」に代表される「第2法則より強い普遍的な不等式」へという流れが目立った。ただし、それも既に「応用」(特に、生物物理への応用)を見据えたものになっている。Stochastic thermodynamics の後継のもう一つの大きな流れとして量子熱力学があって、これは量子情報理論との関係もあって勢いよく研究されているが、今回の研究会ではそういう講演はほとんどなかった。(量子熱力学という言葉がタイトルにある講演はいくつかあったが。。)
招待講演では、25分講演+5分議論なのに、25分の中に色々な研究結果を「ごった煮」的に組むのが多かった。ひとつの講演としてなるほどとうなったのは、クリスの講演と関本さんの講演だった。クリスは第2法則を破る確率をある普遍的な不等式で抑え、その不等式の等号部分を漸近的に満たす系が存在することをいう。前半は僕もノートに書いたことがある簡単なものだが、後半は全く想像してなかったし、僕はまだ理解できていない。関本さんは、系と環境の切り分けが時間的に変動していく状況を考え、「マルティンゲール」がどのように効くのかを論じた。これは例題として面白く、自分でも手を動かして考えてみたい。(個人的には、マルティンゲールの話と詳細つりあいが交錯している部分に強く興味を惹かれた。関本さんは強調してなかったけど。)ふたりともメッセージをシンプルにしつつ、研究として明快で新しい結果があって、また、それぞれ他人にはない彼らならではの味もある。そういう講演は気持ちがいい。
他にも学んだことはいくつかある。講演やポスターで新しい研究成果を素早く知る、というのは研究会のスタンダードかもしれない。しかし、全体的には「刺激的に盛り上がる感じ」とは程遠い。大きな流れとしてある、基礎から応用への展開への動機がパッシブで(=「そうでないとポジションとれない;グラントとれない」という雰囲気)、展開に勢いがないように僕が感じたせいかもしれない。社会的状況は全くそのとおりで、色々な具体例で知った。そういう適応も大事だし、成功して繋いでいてくのも大事だけど、もうすこし研究の内面から踏み込んだ発展を見たいとも思う。これは他人事でなく、僕自身が生物物理的現象を含む様々な非平衡現象への展開に興味をもちつつも、事実上何もしていない、という状況を変えないとなぁ、と思っている。ただ、強く関心をいだく基礎的な諸問題があって、その解決への試行錯誤に時間を費やしているので、そこまで余裕がないのは事実なので、どこまでどのようにできるのか・・不透明だけど。
僕の講演は、Stochastic Order Parameter Dynamics with Energetics (SODE) というセミマクロな模型のクラスを提案し、特別な境界条件(フラックス制御境界条件)での熱伝導相共存の解析を紹介し、その結果として、「平衡条件下の準安定状態の熱伝導による安定化」が生じることを示すのがメインだった。現象はかなりの人に興味をもたれたと思うし、解析は一部の専門家には黒板を使って細部まで丁寧に説明した。会議の多くの話題からは大きく離れているし、こんなことをやっている研究者はそもそもいないのだが、研究会の趣旨にはぴったりだと思っている。
この講演、完全書き下ろしで、かつ論文準備中の状態なので、準備も大変だった。特に、一週間前にver.0ができたけど、飛行機関連のトラブル対応やらなにやらでver.1 が土曜日で、結局、飛行機の中でも検討してかなり構成をいじった。結局、リハーサルをしたのは月曜の夜で、少しオーバーしたので、どこを喋らないかという検討を火曜日の朝(5時くらい)からした。何とかぎりぎり間に合った。発表は概ね想定どおりだが、ハイライト近くでひな壇から落ちてしまい、もっとも肝心な部分の説明(理論が実験ときちんとあっている)が消えたかもしれない・・。スライドには書いていたのだが。ちょっと悔やまれる。ひな壇は高くないので、何がおこっているのかわからなくて、僕が単に「うぁー」というプレゼンだと思った人もいたらしい。
土曜日
さらに2週間とんだ。この4週間は、記憶があまりない。。膨大な仕事があって、あいた時間に研究もどきをしていたが、ちっとも進まないし、論文等は全て宙ぶらりんになっていた。
それでも、共同研究者たちから色々なノートが送られてきて、再スタートに向けて準備が整ってきた。まず、3ヵ月以上懸案になっている、熱伝導気液転移の非平衡統計力学からの理解の話。どうしても、「最後の仮定」をはずせない。それを入れれば、現象論を支持する結果になるし、その「仮定」はもっともらしいのだが、ミクロで記述している以上、例えば、数値実験で検証されるのだから、yes or no があるはず。何とかして、その「仮定」を導こうとあれやこれやとやってきて、例えば、その「仮定」を「別の仮定」から導くとか、、はあるのだが、どうも明晰になあらない。
で、僕がまともに考えられていないときに送られてきていた中川さんのノートをみると、何やら大きな進展をしている。中川さんは一貫して現象論としての熱力学の体系の整備をしていて、特に、これまでの議論で後回しにしていた非平衡度を変えたときの振る舞いを整理していた。勿論、非平衡統計とも関係することがあるので、いくつかの論点は共有して、時々議論はしていた。しかし、僕が全く抑えていなかった方向から、変分原理の新しい特徴づけができていた。
これが素晴らしいので、急きょ細かい点まで検討し、少し修正が必要だけど、大きな方針は正しいというところまで納得した。それなら、、と、その方針を非平衡統計の方向に持ち込んで再定式化すると・・、おぉ、こっちでもその機構が綺麗に働くじゃないか。何てこった。膨大な時間をかけてのたうってきたが、これまで気が付かなかった。非平衡統計全体の見直しが必要なので、それは来週にきちんとノートを書くとして、鍵となるアイデアの部分はいけている気がする。そうすると、これまでの「仮定」は定理になる。まるで違う方向から、こんなことが示せるとは・・。そして、昨年末のPRL論文で提案した変分原理が非平衡統計から導出されたことになる。
何度もできた、と思って、論旨に穴があったり、別の仮定を使ったりしていたので、今の時点でできたとは思っていないが、ともかく気分はいい。非常に鬱屈した気分になっていたのが晴れた感じになった。これが午前まで。
午後からは、論文の赤入れに。色々と溜め込んでしまった諸々を一気に取り返していく。(共同研究者の皆さん、少しお待ちを。順番にエンジンをかけていきます。。)
月曜日
2週間とんだ。日記再開して、すぐにこけている感じか。
この間、色々と忙しくしていて、研究の時間はまともにとれていない。大体1月は、大学教員にとって、1年でもっとも忙しいのだが、今年は比較的余裕があると思っていたが、甘かった。立て続けに仕事が入った。
事実上、閉店している研究だが、周りの人が色々とノートやらを送ってくれている。(院生との)圧力ゆらぎの話は、セミナー後に、がっと集中して考えて面白かった。100年以上に渡って色々な人が色々なことをいっている中で、「新しいこと」を加えようとする話なので、論文の書き方も注意しないといけないけど、それ以上に未来への発展でもっと何かあるかもしれないなぁ、と思ったり。個人的には、こういう話は大変好きである。
ネーターは止まっている。ノートや論文草稿はもらっているけれど、うーむ、、という状態。熱伝導気液転移は、新しいノートがいくつか送られてきていて、うーむ、、という状態。しかし、ネーターも100年以上の話だし、熱伝導気液転移も200年くらいに渡る話か。。まぁ、(流行にのって、大人数の研究者がやっている研究をするのと対極にあるが、)結局、自分が好きな研究をするわけだが。。