金曜日

平衡状態を与える「環境」を(確率的)境界条件として与えるのは、標準的な手続きである。しかし、厳密なことを言えば、それで保障されているのは平衡分布までで、動力学や非平衡状態で正当化がされているわけではない。特に、境界で異なる温度の条件を課すとき、平衡のときに使われている境界条件をそのまま使っていいわけではない。ただし、この点にこだわるのはあまりにもアカデミックというか、実際にはその選択に依存しないと期待とともに真剣に考えられているわけではない。したがって、十分大きな系において体積浴および熱浴に相当する部分を「一定の圧力を受けて熱の出入りを許す境界」を導入することで切り離す手続きに疑問をもたなかった。

今回の論点はそこにある。イタリアグループは、全てを力学系で書いたときのみピストンは動き、上記のような確率過程の有効記述を入れるとダメなのは合理的だと予想する。(その予想の根拠ははっきりしないけど。またその予想の形として彼らが明示的になるまでにすごく時間がかかったけれど。)河合さんは、この境界条件に決定的因子が欠けていると指摘していた。はっきりと表現されるわけではなかったけれど、河合さんの中には明快な描像が見えているようだった。僕は河合さんと話をしながらこの描像を学び、自分の言葉で表現することを試みていた。それはそんなに簡単ではなく、時間がかかるだろうと思っていた。昨日までは。

朝、氷点下6度くらい?の中、地下鉄の駅に向かって歩いていると、見えた気がした。(ノルディック理論物理)研究所につくと河合さんがいたので、すぐに説明する。昼休みにバージョンをひとつあげる。夕方には、その方向でのもっとも簡単な表現が分かった。ウラが欲しいでプログラムを書いて確認しようとしたが、せぐめんてーしょんほーると エラーがでる。くそ。(どっちみち駒場から京都への計算機の引っ越しがあるので、しばらく大学の計算機が使えないのだけど。)夜に再考して、それまでに誤っていた部分を見直した。(河合さん、あの絵は間違っていました。。。ってみていないか。)

ポイントは、環境は、体積とエネルギーだけでなく運動量も溜めれることにある。だから、「一定の圧力を受けて熱と運動量の出入りを許す境界」を考える必要があった。(T,p,u)という熱、体積、運動量のやりとりを制御する示強変数があって、その変数の制約のもとで、体積、熱、運動量が系に出入りする。そういう確率的境界条件を構成できたと思う。断熱ピストン問題はこの境界条件で議論しないと誤った結果になる、というのが今日の理解である。(ここまで書いてもこの日記を読める人が数式で簡単に書けないと思っているので踏み込んで書いている。)これが本当なら個人的には凄く面白い。本当かどうか、というのは、例えば、断熱ピストン問題の希薄極限の数値実験をして、希薄極限の結果が再現できればよい。(だから数値実験をしたくなった。)

それに関連して、もうちょっと易しい話で、温度差で駆動するシステムで、ビュッティッカー=ランダウアータイプでも、ファインマンラチェットタイプでもないクラスがあるということを前に出す方向も今朝同時に考えた。これは中山さんに説明して、実験可能性を尋ねてみた。対称性の破り方がこれまでにないもので現象として面白いと思うんだが。。(中山さんとは、先日の連続体試験問題の解答を論文出版レベルにあげるべく相談している。想像していなかったことが綺麗に成り立っており、現段階でもすごく面白いのだが、マニアの喜びでからレベルをあげれないかなぁ、、と。)

あぁ、気持ちいい。ストックホルムにきてよかった。