木曜日

小松さんと田崎さんに駒場にきていただいて、僕の講義がはじまるまで会談。主に、現状の確認をする。熱と力学の合体問題では、線形応答領域に限定するかぎり、ソース・ドレインが不要である鮮やかな議論が内容的な進歩である。小松さんからの問題提起で田崎さんがさっと綺麗な解をしめした。

この会談で、拡張熱力学路線の明瞭な終焉だと、僕は断言した。拡張されたギブス関係式がもたらす真に新しい普遍的関係式はない。これは不幸な結末を意味しない。新しいスタートである。拡張クラウジウス+エントロピー的表現は全く正しいわけで、これこそが次なるステップへの基本軸になる。そういう展開をこれから力強くすすめていく。捨てるものは潔く捨てる。

第一に、この基本軸とエネルギーバランスを線形応答領域で組み合わせると、(普通の線形)非平衡熱力学の別方向からの表現を得る。既に、ある例題では、昨日計算したのだが、非平衡条件下の力を統計からきめることが可能になる。ところで、線形非平衡熱力学をミクロから記述する理論とは、Onsager にはじまる線形応答理論にほからない。力でなくカレントと一般化力の線形係数をカレント揺らぎの時間相関で捉えるのだった。それに対して、僕たちは、非平衡条件下の力を直接統計力学で捉える。この同じ現象を違う方向からみることが新しい展開の出発点である。

これは、僕の周りでは、しょっちゅうでているフレーズである。レオロジーを議論するとき、線形応答理論の拡張である非線形応答理論にもとづいて、時間相関をMCT で処理するのが、現在、定量的にはもっとも成功しているアプローチである。それに対して、Otsuki-Sasa ではじめて次の数年で熟成させる予定にしているのは、非平衡条件下の力そのものを統計力学で捉えることである。実際、平均場近似のもとで、降伏応力の発生を見事に本質を捉えていると自分たちは思っている。(長距離、長時間の振る舞いは、平均場ではだめで変調がいる。この手続きを実行しないと、一般的に受け入れられないのは承知している。ライデンでは、Cates さんとじかに対面することになるので、そこが山場のひとつだろう。)

つまりだ、非平衡統計の核心部分のひとつは、時空の統計の問題と配置の統計の問題の絡みなんだ。力でみれば配置の問題になるし、輸送係数でみれば時空の問題になる。ライデン会議の主テーマである動的相関もそういう問題だと思っている。すでに、波多野さんがヒントをつかみつつあるように、動的相関の異常性は、非平衡力の異常性と密接につながるはずだ。Iwata-Sasa, Ohta-Sasa ですすめている 動的相関 を捉える技が熟してくると、それと非平衡力の関係を理論的に見出す日も遠くないだろう。また、線形非平衡領域において、動的相関と拡張クラウジウス路線の両方を非平衡条件下の相変化を題材にして、同時にみていこう、、ということをconcluding remark で明示的に書いたのが、Miyama-Sasa 論文だ。

すすむべき方向が明瞭にみえてきた気がする。それぞれの課題においては、わからないことだらけだが、大変、楽しそうだ。このうきうき感は、何ともいえず心地よい。色々な問題でつまっていて苦しんでいるのはそうだが、それはそれで、時々は遠くを見たい。激動の1週間だったが、プラスになって終わったと思う。(後付けだが、(幻の)ギブス関係式の強さに恐怖を感じていた。たしかに涙が出るほどにうれしいことだったが。。。)