日曜日

先週は、台湾で国際会議があった。気になる研究を知ったし、立ち話で色々と話しをしたし、有意義なことだけみればよかった。しかし、出張中は色々な仕事は止まるので、これがいいことなのかどうか。。厳しいなぁ。

自分の研究もひとつだけ「宿題」を持って行った。毎日、チャレンジしていたが、中々うまくいかず、堂々巡りをしていた。帰国する途中でやっといけそうな方針が見えたかもしれない。これは、今週、ノートをタイプする。

月曜日

科研費申請書:熱伝導下の気液転移(の実験)で書いているのだが、いよいよ大詰め。(web入力分も入れた)全部書いた版で数えて、version 4までいった。多分、ver. 5を提出することになる。

来週は台湾での国際会議があって、熱伝導下の気液転移で講演する。そのスライドもひととおりつくった。

で、その「熱伝導下の気液転移」の論文、無事にPRL に掲載受理となった。よかった。8月に一度風景を見失って苦しかったが、今はさらにくっきりと見える。勿論、科学的にはこれからが問題で、だから科研費申請もがんばって、また、理論も頑張る。(何としてもミクロから筋を通したい。)

土曜日

学会後、月曜から(個人比的に)凄い数の用務があって、あっという間に時間が流れた。研究会が基研であったが、全くいけなかった。そうこうしていても、アメリカ、ヨーロッパ、日本からノートが届き、対応したいのだが、、うぬぬぬ、、となっている。どれも面白く、かつ、一部は共同研究だしちゃんと対応しないといけないのだが、メールを書く時間がとれなくて。skype で黒板つけて自由自在に使えるようになればそれが一番いいのだけどなぁ。
 ただ、今週は、隙間の時間では、科研費申請書が優先事項だった。時間の対称性関係で基盤Aをもらっているのだが、熱力学拡張に関係した「実験」を何としてもみたくてだなぁ、、、そして、おそらく「今」がほとんど唯一といっていいくらいの絶好の機会だと思っているので、何としてもこの企画は採択されてほしい。学問的に意義がある自信はあるけれど、申請書がダメならダメなので、全力で取り組んでいる。

そういう事情なので、自分の研究はオフにしているのだが、ついつい考えることがあって、(計算はしていないのだが)実は盛り上がっている。普通にやれば、熱伝導下気液転移が線形応答理論で計算できないことは学会中に納得したのだが、ちょっとした裏技で計算できるんじゃないか、、と思い始めていて、ちょこっと殴り書いた範囲では悪くはない。多分、できる。これは10月中に計算できればいいな。ターゲットは決まっていて、線形応答の範囲で定常状態が確定するなら、その状態に対して、(中川さんが学会でしゃべって、最新のpreprint で書いている)スケーリング関係式の有無をチェックすればよい。このスケーリングがあれば変分原理があるところまで追い込んでいるのだから、これがあるなら変分原理が成り立つし、それがないなら少なくとも僕たちの変分原理はない。新版の線形応答理論の式で、パッとみた感じだと、いけているような気もするが、まぁ、慎重に全部を計算するまでは分からんよな。

日曜日

岩手で学会があった。色々と面白い講演や勉強になる講演もあったのだが、今回は、「熱伝導下の気液転移」に関する(インフォーマルな)話がたくさんあって、それに集中気味だった。特に、「数値実験はじめています」「理論的解析可能モデル考えています」「こんな実験どうでしょう」という話を学会で初めて聞いた。
厳密解析可能なモデルは、僕も考えたかったのだが、うまい案ができてなかった。その方が考えている方向は正解のような気がする。本当に解析可能かどうかはやってみないと分からないが、できないはずがない気がしている。
実験の提案は、なるほど…というもので、既に相談をしている方とは違う視点からのものだった。急遽、その視点でみた僕たちの理論がどのように変更されるのかを検討すると、現象としても新鮮で面白いことがあるんじゃないか、という気がしてきた。これは楽しみになってきた。
どちらも、内輪だけで考えている限りはでてこなかった話で、外に広がっていく感じが大変楽しい。こういうのを聞くだけで、学会にきた甲斐があったと思う。
学会に行く前にたてた宿題として、線形応答理論で「なぜ」計算可能にならないか、という論旨をつめ、あわよくばそれを踏まえて新しい形式をつくることをあげていた。。前半部分は、多分、完全に理解した。まだ清書ノートを書いていないが、はっきりと状況が見えてきた。後半部分は、いまだに苦しい。どうしても形式的な話になってしまうので、筋道が見えない。厳密解析可能モデルなどで具体的に議論するなどが必要かな。

学会講演では、低次元ハミルトン系カオスの緩和プロセスでの「information loss」の定量化に関する話が僕的には盛り上がった。理論で制御されている程度が分からなかったが、明快な話だった。17年前に僕はこの問題を懸命にやっていて、操作つき、かつ、リアプノフ解析を使って定量化しようとしていた。数値実験の結果は示唆的だが、それを理論的にきちんと制御できないままなのがずっとひっかかっていた。この機会にもういちど考えるか。。
ただ、平衡化のシナリオや平衡状態の特徴づけはラファエルさんと研究をすすめており、その立場とは直交している。そっちはそっちで面白くなりそうなんだが。(ノートを書く時間がとれないのだよなぁ。時間の余裕があれば、そっちのノートも書こうと思っていたのだが。)

水曜日

先週、らふぁえる(=るふぇーぶる)が1週間来ていた。研究会とかではなくて、単純に1週間滞在して毎日議論しようという企画である。当初の予定ではその週はゆったりしているかな、と思っていたけれど、論文改訂稿作成の最終チェックおよび学会1週間前でバタバタしていて、のんびり議論する余裕はなかった。それでも、決めたことなので、半ば強引に「毎日2時間  x 5日間」を強制的につくり、その10時間がきちんと作動するように夜とかに準備していた。

その結果、想像以上の実りがあった。新しい概念(候補)やそれを綺麗に示すもっとも簡単で物理的な具体例構築など、滞在前と滞在後では風景が変わった。ラファエルも大変喜んで帰国した。夕食を一緒にとって色々な懇談をする(=これはこれで大事なのだが)は忙しいので機会をとらず、この10時間だけに勝負をかけた。あとは、これをどうやって論文出版までもっていくかだな。。いくら本人たちが喜んでも論文として公表しないと意味ないからなぁ。

月曜日

学会までに絶対に終わらせないといけないとしていたことは、学会の領域代表としての仕事(=今晩予定)を除いて大体終了したかな。特に、「熱伝導下の気液転移」についての論文の改訂は重かった。二人の査読者のコメントが膨大で、それらに対応して、かつ、全部を論文に入れるのに苦労した。かつ、田崎さんに指摘された致命的な間違いの対応も論文改訂作業の一貫としてスマートに対応したかった。多分、終了。最近のPRLだと、最初の二人がpositive でも、ここから第3、第4の査読者にいくことも多くあるので、それも想定しながら対応したつもり。(佐々=横倉も最初の二人がpositive なのに、第3、第4にいってこじれてしまった。第3、第4の査読者のレベルがあまりにも酷かったので、最終的には問題はなかったが。)

ちなみに、僕自身、第3査読者として決定的な役割を果たした論文もそれなりにある。僕の前の二人の査読者がどちらもちゃんと読めてなくて、それでいて意見が分かれていて、僕は内容を完全に理解して、ダメとかOKとか判断してきた。僕は、僕の理解が学問的には(大体)正しいと思っており、PRLの場合には、概ねそれがひっくり返ったことはない。しかし、僕が最初の査読者としてダメと判断したのに最終的に受理された反例は2つある。そのうちの一つは査読者間でも意見が分かれていたし、まぁありかと思うけれど、もうひとつは学問的には全くダメで、その経緯に僕は納得できていない。編集者から説明はあったが、僕は全く納得していない。ただし、そういうのがまだ一件だけなので、PRL は基本的には信頼している。だから投稿もするし、査読もしている。(もちろん、PRLの査読者の質の平均が専門誌に比べて低いのは事実であり、掲載OKだからいいとか、掲載ダメだからXとかいうわけではない。あくまでもシステムとして健全だと思っている、ということ。大体、例えば、JSP の査読依頼は、例えば、Spohn 先生からくるわけで、査読者が審査されているような緊張感があってだな。。)

その一方、(僕が関わった)nature 系統の査読システムはひどく、学問的なことが全く尊重されないように見える。査読者として懸命にレポートを書いたが、無視される。別にそれも編集者の判断だから構わないが、あまりにも虚しいので、あぁ、学術雑誌じゃないな、と思うことにした。と、僕はへそをまげて、この夏から、nature 系統の論文査読はしないことにした。[勿論僕の意見が無視されるのは、僕が掲載に影響を及ぼすほどの社会的力を持っていない、ということなんだけど、学問的な意義の議論より、知名度やら何やらが優先されている、ということで、そういう世界に関わりたいと思わない。]あれに掲載されるかどうかは学問的なことは多分関係ない、と僕の経験の範囲ではそうなっている。僕は普段読まないし、まぁいいや、、と。

土曜日

あっという間に9月になっている。論文の改訂作業は続いている。膨大な査読者コメントの全部に何等かの対応をして論文に反映させたり、応答を考えたり、8月上旬の穴埋めを考えたり。このあたりで、8月上旬に田崎さんに指摘された問題を明示的に書いておこう。

公開されているプレプリント(=投稿版とほぼ同じ)では、変分原理が導出されているように見える。正直にいうと少し違和感があったのは事実である。定常状態の条件が明示的でなく、局所平衡と線形応答領域だけで決まるのは何か変だった。でも何度チェックしても問題がないように見えたのでそのまま公開した。ところが、、、とある関数の微分可能性が自明ではない、と田崎さんに指摘された。まぁ、微分係数の連続とか厳密にいえば怪しいけれど、今の場合は、絵を書いたら、まぁ連続だと考えるのは当然に見えた。ところが、その絵が間違っていた。ご都合主義的に(=成り立ってほしいときに成り立つように変換して)絵を描いていた。これをは一般には成り立ちそうもないので、論旨としては、その微分の連続性を定常状態の条件として仮定する、、ということになる。

そのままでも論文の修正としてはわずかで済むかもしれないが、物理としては非常によくない。定常状態の条件というのはある種もっとも物理の核心のような部分なのに、そこで(物理として解釈できない)ある関数の微分の連続性とかを持ち込むのは筋が悪すぎる。そこで、それを破棄し、正面から新たな「前提条件」を模索しはじめたのだった。

最初の数日間で、一息ついたのは、「熱力学関係式が成り立つ」のを定常状態の条件とする、という論旨である。まぁ、当初のノリに近いのだが、具体的にその条件から変分原理が成り立つことは示せる。ただ、実際に示すのは決して自明ではないのだが、中川さんによると「それは自明」といわれるもので、そう思って数式をあれこれ戯れると、まぁそうかな、、という気がしてくる。熱力学関係式と変分原理の関係は論理的には別物だが密接な関係があるのは避けようもないのは式をいじらなくても分かるし、そもそも熱力学のプロでなければ変分原理と熱力学関係式は縮退しているかもしれない。

ともかく、それを保険にして、新しい案を模索した。。。というても、研究者のタイプは色々であり、僕はこういうとき「色付きイメージ」を見ることができず、アイデアがでない。中川さんからでるアイデアを僕が論理的に検証するというパタンを繰り返していった。↓の日記で書いたあとも色々あって、結局、現在、それからの変種を出発点にとる論旨が残っている。まぁ、如何にも熱力学の設定っぽいね、、という要請をするのだが、熱力学関係式を直接要請するわけではない。そして、その要請から、変分原理も熱力学関係式もでる。その条件が意味していることについてまだ完全に理解しきっていないので、現在もまだ検討を続けている。

この問題は、ほぼ1ヵ月くらいに渡って、僕の頭に重くのしかった。査読レポートに対する応答時期と重なったので、締め切りつきで模索を続けることになって相当に苦しかった。でも、何となく(当面の)終わりが見えつつあるかなぁ。。