非平衡エントロピーをめぐって

人生で3度目の"dQ=TdS far from equilibrium"というLandauer 論文 http://bit.ly/19oGwtB に挑戦するも、分からんかった。ただ、非平衡状態間遷移における"reversible heat flow" の重要性は明快に主張されている。

この"reversible heat flow"を数理的に定式化すると"Hatano-Sasa" http://bit.ly/18xEZCz に自然にいきつく。 論文ではLangevin で見せているが、もともと個人的史的には"reversibility"にもとづく一般的な数理的アイデアの方が先にあった。Hatano-Sasaを書いたときは、Landauer 論文を知らなかったので引用をしていないが。

Jona-Lasinioさんたちの最新論文 http://bit.ly/119oMM6 は、僕には Hatano-Sasa と同じにみえる。1年前にお会いしたときに講演を聞いてすぐに脊髄反射でそのようにコメントしたが、合意には至らなかった。7月に会うまでに論点を完全に整理して、より込み入った議論をしよう。

Hatano-Sasa もJona-Lasinioさんたちも「Oono-Paniconi の提案にもとづいて」と書いているが、Oono-Paniconiの「過剰熱にもとづく状態変数の定義」をもっとも素直に定式化したのは、"KNST" http://bit.ly/135bB1Z である。線形非平衡から少し離れたところでは、Hatano-Sasa と違って対称化シャノンという新奇なものがあらわれる。

非平衡エントロピーに対しては、昨年、Maesさんたちも違った定式化を提案しているし、先日のLiebさんとYngvasonさんの公理的アプローチも新しい展開である。(ただ、公理が弱すぎて色々な解釈を許す段階なので、まだ検討が必要。)また、KNSTの前、Hatano-Sasaの後、Ruelleさんによる定式化もある。これはKNSTに含まれる。

どこに向かうのか分からない危ないテーマである。僕が15年前に真摯に考えはじめたとき、15年後にこれだけの人が考えるようになっているとは思いもよらなかった。しかし、非平衡エントロピーをめぐる全体像ははっきりせず、明快な物理的意義も見えてこない。ここらあたりで真に突破しないと、あとは静かに消えていくだけだろうなぁ。

そういうわけで、決意を新たにした。7月講演の構成もおぼろげながら見えてきた。気合が入ってきた。外的には何もしていないような数日だが、これでよいのだと思う。