月曜日

KNST論文に大きな誤りがあることを完全に認めて、一日経過。

山登りをしていて、見晴らしのいい綺麗なとこにきたと思ったら、そこは恐竜の背中だった。恐竜が動きはじめて、まっさかさまに落ちていったのだが、田崎さんがあわててネットをつくって、すべりおちるのを止めた。これが昨夜までだった。[悔しいかな、KN表現を明示的に使わない僕の導出方法では崩壊したまんまである。方法にこだわっている状況ではないが。]

ネットに穴があいてなかったら、拡張クラウジウスのおいしいところは残る。例えば、長距離相関の存在を熱測定で捕まえるとか、、コロイド多体系のシャノンエントロピーを熱で測る、、とかは救われていそうだ。他方、昨夜の僕は、SST については悲観的で、形式的には残ってはいるけれど、非自明な主張が何もないような感じに見えた。

で、朝の電車。ともかく、ネットのおかげですべりおちるのはとまっているのだから、そこを足場にして這い登ることにする。ペンをもたず、描像の組みなおしをはじめる。色々なことを頭でくっていると、能天気なもので、残ったSSTこそが確かに素晴らしいのでないか、、と思い始めてきた。たしかに理論的には弱い形になっているのだが、新しい理論が一挙に色々なことをいえるはずがない。長距離相関の力学への変換については、捨てないといけない。ボルツマン方程式が与える熱流の2次の項の妥当性をメタ的に議論する部分については、捨てないといけない。前の幻の版は、こういう派手な部分にすぐに目がいってしまって、正しい意義を捕まえ損ねていたように思えてきた。

思うだけで意味がないので、今週中処理予定の仕事の合間をぬって、計算機実験でウラをとりはじめる。ほほほほほ。確信した。たぶん、いける。非自明なことがたくさんうまっている。いや、これこそが真実への正しい道だ。また、このまま思うような形ですすんでいくと、投稿中論文も微修正ですむし、大きな流れはビクともしない気がする。

というわけで、気分的には、急降下してから急上昇しはじめたようである。

しかし、ふりかえるに、具体的な例題で僕たちの命題がおかしいことを今の段階で指摘してくれたのは本当にラッキーである。査読者が僕たちのミスを指摘できるかどうか難しいと思う。具体例とあわないことをみとめて、自分たちの証明にもどっておかしな箇所を同定して、その部分だけを徹底的に考えて、別の簡単な例題を新たにつくらないと、その論旨がおかしいことを納得できないくらいに微妙なものである。このミスの発覚が、雑誌に掲載された後だと、大きな失態になるところだった。(今回の指摘がなくても、いずれ計算機実験や具体例の計算で、誤りは見つかるはずだった。)

正直にいって、僕は、指摘してくれた人の計算間違いか、勘違いだと思っていた。小松さんたちが同じモデルの数値実験をして何かやばそうだ、、というのが1週間前だっけ。それでも、数値実験でちゃんとつめるには時間がかかるし、ともかくちゃんと計算して、先方がおかしいことを示そう、としていたのだった。
ところが、間違っていたのはこっちだったのだな。。

この重大な貢献をしてくれたのは、この日記でも既に名前が何度かでている、グレン=パケットである。昨年の年末には揺らぐフロント関係で彼のD論の仕事を読み直したのだった。またグレンの校正を受けた論文も相当数にのぼる。Oono-Panicoi の影響をうけたHatano-Sasa の第2法則の拡張や Hayashi-Sasa の有効相互作用は、グレンの添削をうけている。グレンは、最近、熱力学の拡張を考えている、、という噂を聞いたことがあった。実際、グレン風の定式化の論文完成が近い様子のようだ。全く、グレンにはいくら感謝しても、感謝しきれない。

こういうエピソードがあると、確かに、今回の仕事は別物だと思えてくる。田崎さんのweb に書かれた「あの回顧録」の後に、こんなビッグイベントがあるとは、誰が思っただろうな。もちろん、ネットに穴があいてなくて、かつ、僕が想像するとおりに、山登りがすすんでいかないと話にならないけれど。